4月19日第6回口頭弁論報告

第3 原審の占有に関する事実認定の誤り

1 原判決の「共同占有」との認定の誤り

 原判決は、控訴人らが駒場寮全体を共同して占有しているとの認定を行っている。
 しかし、すでに述べたとおり、駒場寮では、大学が「用途廃止」をした時期以降も、駒場寮自治会による平穏かつ整然とした管理がなされている(乙21)。
 そもそも、占有とは、「自己のためにする意思をもって物を所持するという事実状態」であり(昭和47年1月27日宇都宮地判・昭和47年(レ)7号)、
 (占有が認められるための)物に対する事実上の支配関係の存在は結局、場所的関係、時間的関係、法律関係、支配意思の存在等を考慮し、社会通念によりこれを定めるべきで、単なる使用を持って直ちに物に関する事実上の支配があるものとすることは出来ない」(昭和34年8月27日大阪高裁決定・昭和32年(ラ)205号)のである。
 かかる基準からは、控訴人駒場寮自治会による平穏且つ整然とした管理がなされている駒場寮においては、個々の寮生らは寮自治会の許可を得て駒場寮の各室に居住し、占有しているに過ぎないのである。かかる事実は、控訴人らが本書面等で寮自治会の権限や駒場寮の管理状況を証拠に即して主張してきたとおり、当然至極のことと言わざるを得ない。控訴人駒場寮自治会以外の控訴人らに駒場寮全体に対する共同占有が認められないことは明らかである(乙40の1〜11、乙40の13〜27)。
 にもかかわらず、被控訴人が、控訴人らが共同して駒場寮を占有しているという事実に反する主張を行ったのは、本件があたかも一部の学生による駒場寮の暴力的な占拠の事案であるかのように印象づけるためである。
 共同占有に関して、注目すべき裁判例がある。千葉地裁昭和46年7月14日決定、いわゆる成田空港仮処分事件である(判例時報641号26頁)。
 これは国が空港反対同盟に対して土地明け渡し断行の仮処分を申し立てた事件であるが、裁判所は、権利能力無き社団の構成員が、土地所有権移転阻止の目的を達成するため、複数の土地上に工作物を設置管理している場合に、各土地は構成員各人が占有しているとの反対同盟側の主張を退け、社団だけが各土地の占有者であるとしてこれに対する土地明け渡し断行の仮処分を認めた。
 他方で、右構成員の占有は占有補助者としてのそれに過ぎないとして構成員の占有妨害禁止仮処分申請を却下した。
 本件控訴人らは、占有移転禁止仮処分当時寮生であった控訴人については、各人の居室についての占有を主張しているので、右千葉地裁昭和46年7月14日決定を全て肯定するものではないが、権利能力無き社団の構成員が「阻止行動」を行っている場合に、全体の占有者として認められるのは権利能力無き社団だけであり、構成員が共同占有者となるものでは無い点は、本件にも通用するものと考える。

2 個別占有が国の実務の鉄則

 被控訴人指定代理人らが所属する法務省訟務局内の国有財産訴訟研究会が作成した「国有財産訴訟の手引」(185〜186頁 乙89)ですら、本件類似の学生寮の占拠の事例でも、行政実務においては、各人が排他的に寮室を占有している「独立の占有者と考えられる」とし、共同占有とは認められないとの立場をとっているのである。

3 原審の占有に関する事実認定の二つの根拠

 ところが、右決定にも関わらず、原判決は控訴人らの共同占有との事実認定をした。その根拠は、
@1996年9月3日の第1次占有移転禁止仮処分、1997年8月7日の第2次占有移転禁止仮処分において、控訴人らの共同占有が認められたこと、及びそれらと内容的には重なる部分があるが、
A「前提事実に見るとおり、教養学部が駒場寮を廃寮とした平成8年4月1日以降も、被告らは、被告駒場寮自治会又はその執行機関である駒場寮委員会の指導の下に、共同して、駒場寮の廃寮に反対して本件建物の明渡しを拒み、東京大学側による本件建物の占有状況の調査を有形力を行使して拒んだこと、駒場寮への新規入寮者の募集を継続して行い、入寮の可否を決定し、入寮以外の用途においても東京大学の学生や学外者に対して駒場寮の使用を呼びかけていること、他にも駒場寮の渡り廊下の取壊作業を妨害したり、電気を違法に供給したりしていたこと等の事実」である(原判決68頁)。

4 上記の2点を事実認定の根拠とすることの誤り

 しかし、@原判決が根拠とする占有移転禁止仮処分決定は、控訴人らの反論の機会がなく被控訴人提出の資料にもとづいて判断されたものである。しかも、後述するように、右仮処分における「執行官による占有の認定」は極めてずさんなものであり、これをもって控訴人らの占有の認定の根拠とすることはできないのである。 
 また、Aの事実は、後述するように、そもそも事実認定自体に誤りがあるか、駒場寮自治会が駒場寮全体を占有していることを示す事情であるにすぎないのであって、控訴人らによる「共同占有」を基礎づけるものとはとうてい言えない。
 これらのうち、控訴人らの占有認定についての実体的判断であるAの事実から検討する。

5 原判決の「共同占有」要件の曖昧さ

(1) 原判決の論理の誤り

1) Aの事実のうち、「駒場寮への新規入寮者の募集を継続して行い、入寮の可否を決定し、入寮以外の用途においても東京大学の学生や学外者に対して駒場寮の使用を呼びかけていること」「電気を供給する」ことは、駒場寮の管理運営行為であり、駒場寮自治会の執行機関である駒場寮委員会のみがこれを主体としてなし得る権限を有している。寮委員などの個々の寮生がそれを実行しても、それは駒場寮委員会による駒場寮の管理運営の補助であるから、占有補助者と評価されても、個々の寮生が駒場寮全体を管理占有することにはならない。
 また、本件の控訴人らの中には、占有移転禁止仮処分執行当時、寮籍を有しない者もいるが、寮籍がなければ、駒場寮自治会の構成員となり得ないから、「控訴人駒場寮自治会又はその執行機関である駒場寮委員会の指導の下に、共同して駒場寮への新規入寮者の募集を継続して行い、入寮の可否を決定」することは、駒場寮自治会の機構上不可能である。
2) 次に、「駒場寮の廃寮に反対して本件建物の明け渡しを拒み」であるが、 駒場寮自治会が駒場寮の不当な廃寮に反対し、その構成員である寮生がその方針に沿って運動することは、学生自治団体とその構成員の行動としては当然のことである。他方で各人は各人の居室で自己の生活を営んでいたのであり、右の事実は駒場寮全体の共同占有の意思や所持に何ら繋がるものではない。 
3) 次に、「東京大学側による本件建物の占有状況の調査を有形力を行使して拒んだこと」「駒場寮の渡り廊下の取壊作業を妨害した」こと等(以下「妨害行動」という)であるが、その際、東京大学当局が行ったのは、学生との話し合いはもちろん、法的な手段すら執らずに、現に多くの寮生が生活している建物の一部を一方的に取り壊す、説得隊と称して寮生の居室に許可無く立ち入ったり寮生を脅したりする、などの違法な自力救済行為であった。それに対して、駒場寮全体を管理し寮生の生活を守る立場にある駒場寮自治会(その執行機関である駒場寮委員会)が整然たる抗議行動を呼びかけ、その構成員である寮生が抗議行動に参加することは当然のことである。しかし、抗議行動に参加したからといって、個々の寮生が個々の居室で生活を送るという寮生の占有形態とは何の関わりもないのである。
 しかも、控訴人ら全員が「共同」として、「妨害行動」を行ったことを示す証拠は存在しない。原判決も、このことをよくわかっているからこそ、判決文においては、「多くの場合駒場寮内の寮内放送によって在寮者が駒場寮の建物前に集合し(た)」、「被告駒場寮自治会又は駒場寮委員会の名で(行動した)」などのあいまいな表現に終始し、結局、右行動等が駒場寮自治会としての抗議行動にすぎないことを認めているのである。

(2) 「妨害行動」と言われる行為の実際

 「妨害行動」はいずれも、学部当局の不当・違法な侵害行為に対する抗議のために行われたのであり、駒場寮の占有を保持する意思で行われたわけではない。実際の行動も、抗議行動であって、占有を確保する行動ではない。従って、いずれも控訴人らの共同占有の根拠となるものではない。また、それらの行動は、学部当局の違法・不当な侵害行為に対する正当防衛的な行動である。以下、詳述する。
1) 1996年4月の占有状況調査・説得隊の違法な活動
 教官らによる「説得隊」および「説得班」は、「説得」と称しているものの、その行動は非常に乱暴であり、寮内の廊下の窓ガラスを下井教授が叩き割ったり、廊下ですれ違った学生をつかまえ一人の学生を何人もの教官達が取り囲み恫喝したりと、寮内に平穏に居住している者にとっては非常に恐ろしい存在であった。居住している部屋の前で教官が何人も待ちかまえたり、突然ノックして部屋に入ってくるなど尋常では考えられない行動だった。また、部屋のドアを勝手に開けるなど傍若無人な振る舞いも目立った。
 控訴人の何人かを含む寮生は、平穏な寮生活を守るために、また、教官の中には「こんな仕事やりたくない」「早く研究室に帰って研究がしたい」、と述べる者も多数いたので「説得隊」なるものの寮生、教官双方に対する無意味さを寮の入り口で説明したにすぎない。
 控訴人の何人かを含む寮生は被控訴人が主張するよう暴力を用いたことはなく、あくまでも話し合いで問題を解決できるように粘り強く交渉していた(==陳述書)。
2) 1996年11月28日における寮の電気供給停止事件
 この時、大貫教授に対して暴力を振るったとされているが、その主語が明確でない。実際、この時に暴力が振るわれた事実はないと証言されている。また、大貫教授の陳述書にある、主婦が登場して「暴力はいけない」と言った事実はない。大貫教授は寮生らの話し合いの申し入れを了承して、自らピンクルーム(北寮内の会議室の別称)へ向かった。大貫教授はピンクルームの椅子に座ってお茶を飲みながらこれからの駒場寮や駒場のあり方について自分の意見を含めて大いに語った。寮生の前で自らの意見を開陳する様は堂々としていて、とても威厳に満ちていた。その後、用事があるとのことで30分ほどで帰った。以上のように、大貫教授を寮内に監禁した事実はない(==陳述書)。
 その直後に学生委員会交渉が行われたが、各学生自治団体は、大貫教授らにたいして、電気停止に抗議するとともに、大学側が問答無用のやり方をやめて学生と誠実にむきあってこそ解決にむけた道がひらかれる、大学自治のルールにのっとって将来の大学や駒場寮についてじっくりと語り合おう、と求めた(==陳述書)。
3) 1997年3月30日の仮囲い設置に対する「妨害行動」
 前日の3月29日に、明寮の明渡断行仮処分の執行が行われたが、4人の非債務者の存在が判明したため、明け渡しは完遂されなかった。
 にもかかわらず、翌日の30日には、明寮取り壊しの準備行為として明寮周辺へのフェンスの設置工事が行われた。これは、右の非債務者の存在を無視する違法行為であったため、多くの学生、OBらが抗議行動をおこなった。
 この行動は、当日の資材の運搬中止および教官との話し合いを求めて、理性的かつ整然と行われたものである。事実このとき、小林寛道教授との間で、1つの拡声器を互いに用い、周囲の学生などにもみられる公然とした形で資材運搬の是非などについて議論をするというやり取りもあったのである(==陳述書)。その結果、自らの非を認めたようで、学部当局はこの日はフェンスの設置を取りやめたのである。
4) 1997年4月10日の明寮明渡断行仮処分
 第2次明寮明け渡し断行仮処分は、大学自治に関わる重大問題であるにも関わらず、審尋すら行われずに決定がだされ、4月10日、執行のため、大量のガードマンがキャンパスにやってきた。秘密裏に出された決定であったため、かなりの間、寮生らは、それが仮処分の執行であることがわからず、ガードマンやトラックの導入に対する抗議行動を行った。後になって事態が判明すると、それ自体、不当な手続であるため、学生自治団体役員や寮生らはハンドマイクを使って学生に対して事態を知らせ、学部への抗議を呼びかけた。抗議の呼びかけが「強硬な妨害行為の先頭に立って行動」したことになるのであれば、学部のやることに対しては学生は黙って付き従うしかないことになり、学生自治の根本が否定される(==陳述書)。
 従って、この時の行為も、学部当局の不当な行為に対する抗議の意思で行われたものであり、占有の意思の存在を裏付けるものではない。
5) 1997年5月22日の教授会抗議行動
 この日、寮委員会の呼びかけによる駒場寮生弾圧に対する抗議行動が行われた。この抗議行動も建物の前で教官にプラカードを見せる、ビラを渡す、弾圧をしないように呼びかける等極めて平穏なものであった(==陳述書)。
6) 1997年5月23日の寮風呂入口封鎖
 この時は、学生らとの交渉窓口となっていた三鷹特別委員会との交渉継続中に何の予告もなく突然封鎖をするという学部当局のやり方の不当性を寮生等が指摘したのに対して、当局関係者が正当性を主張したため議論となり、当局関係者は結局非を認めたものの、それを文書化することを拒否するという矛盾した態度をとったため、長時間経過したものである。
 また、当局関係者が不用意に、寮風呂入口を閉鎖しなければ浮浪者が入ってくるといった浮浪者を蔑視する発言をしたことから、発言の撤回が求められたことも、長時間経過した理由の一つである。差別発言の撤回要求は、駒場寮を占有する意思とはいかなる意味でも繋がらない。
7) 1997年6月25日の「占有状況調査」
 この日に占有状況の調査と称して学部が行った居住部屋等への強引な侵入に対しては、当初寮生らは丁寧に断ったが、一部教官が力ずくで寮生を排除しようとしたため、騒然とした雰囲気になった。しかし、寮生らは粘り強く交渉を続けていた。
 その後話し合いの場となった101号館の入り口では、学生と教官のそれぞれの代表が話をしていたが、残りの学生と教官はすることもなく成り行きを見守るだけであった。大沢教授が持論の「我々のタックスペイヤーに対する責任と義務」をしきりに説明していたのを聴かされている寮生もいた。
8) 1997年6月28日の寮風呂・北寮庇・渡り廊下破壊
 この寮風呂・北寮庇・渡り廊下は、明渡断行仮処分の目的物にも入っていないものである。とりわけ、渡り廊下と北寮庇は、国側が断行仮処分で請求を取り下げたものである。それらについて作業員やガードマンを大量に動員して被控訴人のいう「取り壊し等工事」を行うことは、明らかに違法な自力救済行為である。話し合いを主張する寮生、OBらを、ユンボやトラックによって強引に排除しようとし、ガードマンによって殴るけるの暴力をくわえた教養学部当局に対し、義憤を抱いて、庇の上に座り込んだり、スクラムを組んで抵抗する如きは、極めて些細な非暴力の正当防衛的行為に過ぎない。また、かかる違法行為にもっぱら抗議する意思で行われた行動であるから、そこには何ら占有の意思は見いだせないのである。
 この時は、甲5号証添付資料2の12頁14時37分の欄にあるように、小林寛道三鷹特別委員会委員長自ら「総攻撃を開始する」旨通告しており、寮風呂解体工事とは関係のない北寮への攻撃を行い、学生らの抵抗はそれに対する防衛的なものであった。むしろ、ガードマンの暴行により、控訴人==、控訴人==、控訴人==、==らが重大な傷害を負った(乙119,120,121,122,123)。

(3) 「妨害行動」をしていないことが明らかな控訴人について

1) 原判決の論理に立っても共同占有が認められない控訴人らの存在
 控訴人らの中には、原判決のいう共同占有の要件に該当しない者が幾人もいる。このように要件に該当しない者が多数いること自体、原判決のいう「共同占有」が駒場寮の実態と解離したものであることを示しているのである。
 原審において、右行動等における控訴人個々人の具体的な行動がいかなるものであったかについて、控訴人らが釈明を求めたのに対して、被控訴人の回答は「釈明の必要はない」というものであった。控訴人個々人が参加していたのどうかさえ明らかでない右行動等が、いかなる意味で控訴人らの共同占有を基礎づける事情となるのか、原判決の認定は全く理解に苦しむものである。
 個々の寮生の行動を示す事実については、控訴人ら作成の表(乙205)の通りである。この表から、実際は原判決が言う「妨害行動」に参加していない多くの控訴人がいることがわかるのである。
@「妨害行動」に全く参加していない控訴人
 ==  ==  ==  ==(同人陳述書)
 ==
 東京都学生寮自治会連合(以下「都寮連」という)
A1996年11月28日の停電の際の大貫教授との懇談の部屋に「出入りした」だけの控訴人
 ==  ==
B1997年5月23日の寮風呂封鎖に関する陳述書に名前が出てくるだけで、具体的な行動が認められない控訴人
 ==  ==
Cその他、「妨害行動」を行ったと認められない控訴人 
 ==
 同人は明寮の明け渡し断行仮処分の際に自分の居室にいたのが発見されたものだが、その後本件建物に移動したとされている。
 しかし、何らの「妨害行動」にも参加したことがない。せいぜい本件建物周辺にて頻繁に目撃されている、と言う程度である。
 ==
 同人は、1997年4月12日に本件建物より現れていることが確認されている。同日には、「旧明寮建物周辺の工事用囲いの建設に対し、通路にベッドを運び、バリケードを作ってそれを妨害しました」(甲14 右松鉄人陳述書)とあるが、この文章は主語が無く、右行為を行った主体は、寮生の一部と考えるほかない。他の控訴人についての同号証の陳述では、主語には「同人は」と記載されているのに、==の部分では敢えて主語が書かれていない以上、==自身とは読みとれない。とすると、==が行った行為は「本件建物から現れた」だけであり、何の「妨害行動」も行っていないのである。
 従って、原判決の論理に立っても上記の控訴人らには共同占有の事実は認められず、原判決の誤りは明らかである。
2) 「共同占有者」が無数に存在するという論理矛盾
 上記のように、寮籍があった、或いは寮に居室を有していたというだけで、本件建物の「共同占有者」とされた控訴人が多数いる。その認定の誤りは、前述のように明白だが、仮に、何ら「妨害行動」を行っていなくても、寮籍や寮に居室さえあれば「共同占有者」となるのであれば、控訴人ら以外にも、「共同占有者」は占有移転禁止仮処分執行当時相当数いることになる。
 実際、1996年9月10日の仮処分調書には、6頁の参考事項の占有者の欄に
「債務者ら20名並びに第三者駒場寮委員会のほか、氏名不詳者数名(サークルを含む)なお、氏名不詳者ら数名については、本日のところ委員会の占有補助者であるか否かは不明である。」と記載されたのである(甲9)。
 駒場寮には、本件執行当時、121名もの寮生が駒場寮委員会の許可を得て入寮居住しており、本件執行調書添付の図面においても、執行官は「数名」どころか債務者以外の多数の者が居住している旨記載している。(占有移転禁止仮処分執行調書 甲9)。
 また、1997年8月9日の仮処分調書(甲11)を見ると、各室占有関係棟調査表には、占有認定されたよりも遙かに多くの人物の名が占有者名の欄にあげられている。控訴人==の陳述書(乙126)でも、駒場寮には占有を認定されていない居住者が当時数10名いることが述べられている。
 駒場寮に居住しさえすれば「共同占有者」になるとすれば、これらの人々は控訴人になっていない「共同占有者」であり、その本件建物における占有が継続している場合、本裁判の判決ではこれらの人々について強制執行することは出来ないはずである。とすると、本件紛争の法的手段での解決は不可能である。
 そのためか、原判決は、「共同占有認定の根拠」を前述のように、駒場寮に居住したことではなく、「控訴人駒場寮自治会又はその執行機関である駒場寮委員会の指導の下に、共同して」、様々な行動をしたこととしているのである。
 それからすれば、前述の
 ==  ==  ==  ==  ==
 東京都学生寮自治会連合  ==  ==  ==  
 ==  ==  ==
については、原判決記載の行動をなした具体的事実が認められないから、それぞれの居室についての占有者ではあっても駒場寮全体についての「共同占有者」とは到底認められない。従って、これらの者に対する国の請求は失当であり、請求を棄却すべきである。

(4)

 「駒場寮自治会又はその執行機関である駒場寮委員会の指導の下に」「妨害行動」を行ったと認められない控訴人が存在する。
 即ち、以下に述べる教養学部学生自治会や教養学部学友会学生理事会、全日本学生寮自治会連合(以下「全寮連」という)を代表して「阻止行動」に参加した控訴人である。前2者の自治団体は、駒場寮自治会と対等な関係にある自治団体であり、その団体の目的や駒場寮廃寮問題に対する重点も駒場寮自治会と異なる。従って、団体の性格上も、実際の現場での行動においても駒場寮自治会ないし駒場寮委員会の指導下にはいることはあり得ない。
 また、全寮連、都寮連については、後述する。
@==
 同人は1996年12月から1997年7月まで教養学部学生自治会委員長であり、1997年5月23日、6月25日、6月28日の行動はいずれも右学生自治会委員長として参加したのである(==陳述書)。
A==
 同人は1996年12月から1997年7月まで教養学部学生自治会副委員長であり、1997年3月30日、5月23日の行動はいずれも右学生自治会副委員長として参加したのである(==陳述書)。
B==
 後述する。
(5) 「妨害行動」に参加しても共同占有者とされない者の存在
 他方、「妨害行動」に参加しても共同占有者とされていない者も多い。
5月23日 == == 他約18名
6月25日 == == 他、氏名不詳者4,5名(甲3)
6月28日 == == == ヘルメットを着用した男
     リカ == ギョロ目の男  黒色のポロシャツを着用した男 ドキュメンタリージャパン関係者と思わしき男2名
      ビデオ男  カメラ女  外人部隊女性2名  ロープ女 
      ちょんまげ男  ==  == ==
      == 
 上記の者は、「妨害行動」に参加しているのだから、被控訴人の主張からは共同占有者とされるはずである。少なくとも、右の各「妨害行動」に共通して登場する==・==や甲14号証に妨害行動に記載がある==は共同占有者に含まれることとなるだろう。
 ところが、1997年2月5日に被控訴人が提起した明渡断行仮処分事件では、控訴人らの反論にあって、被控訴人は
 == == == 
の3名の債務者について、決定直前になって仮処分の申立を取り下げている(乙45)。
 また、以下のように、1997年9月3日に占有移転禁止仮処分の決定は出たものの、その執行の段階で居住が確認できず、執行不能となり、原審の被告とされなかった者がおり、その中には==・==・==も含まれている。
 ==  ==  ==  ==  ==  
 ==  ==
 にもかかわらず、執行調書中に、「東大駒場寄宿寮自治会代表者==に対し、本件各債務者名を示し、同債務者らの居住の有無を確認した結果、・・・その余の27人は居住している旨陳述した」とあるように、これらの者は、当時の駒場寮委員長==の説明に基づいて、実際に本件建物に居住していないことを根拠に、債務者として認定されなかったのである。
 この認定に対して、国は何ら異議申し立てをなしていない。
 即ち、被控訴人は「妨害行動」に参加すれば共同占有者となるという論理の破綻を自ら認めているのである。
 この点について、駒場寮に対する明渡断行仮処分決定(乙125)は「本件債務者らの中には、本件建物に常時居住しているわけではないと認められる者も若干名存在する」としながら、「そのような者についても、しばしば本件建物に出入りして大学の明け渡し要求に反対する活動の中心となって活動していることから、右のような共同占有に荷担し、それによって具体的に本件建物等を占有しているものとみることができる。」と判示している。この理論では、しばしば本件建物に出入りして大学の明け渡し要求に反対する活動の中心となって活動している者は、全て占有者となってしまい、占有概念が不当に広がってしまうことになる。即ち、上記の者のうち、かなりの者が共同占有者となりかねない。また、その後しばしば本件建物に出入りして大学の明け渡し要求に反対する活動の中心となって活動することにより、これら占有認定されていない「共同占有者」から占有移転された者も存在しうるから、仮に被控訴人が本件で確定判決を得ても、およそ実効ある強制執行をなしえないことになる。
 以上の検討からも、原判決および被控訴人が主張する共同占有認定の基準が駒場寮の占有の実態と合致せず、不適当であることは明らかである。
 裁判所は、控訴人らが主張するとおり、駒場寮は駒場寮自治会が整然と占有管理している事実を認め、控訴人らによる駒場寮全体の「共同占有」なる概念を放棄し、駒場寮自治会以外の控訴人については、原判決を破棄し、被控訴人の請求を棄却すべきである。

6 執行官も共同占有でないことは認めていた

 また、1996年9月10日の占有移転禁止仮処分執行に際しては、控訴人ら代理人弁護士加藤健次が指示説明を行った。仮処分調書本文Dには、「指示説明者は別紙当事者目録記載の各債務者につき、当職らが本件建物を専用しているとの認定につき、特に異論を述べないと応答するに止まり、上記の者以外にも専用者の存在もある旨述べた。」との記載がある。執行官が、「共同占有」という用語を避け、わざわざ「専用」という用語を使っているのは、「寮内に居住していること自体は敢えて否定しないが、共同占有と言うことはあり得ない」という弁護士加藤健次の説明を認めざるを得なかったからに他ならない。弁護士加藤健次は、執行官が、自分の説明を認めたために、「特に異論を述べないと応答」したのである(乙124)。
 原判決は、この占有認定に際して「加藤健次弁護士からも現場で意見を徴し」たことをもって、占有認定の正しさの根拠としているかのようであるが、加藤弁護士の意見とは、右のようなものであったのである。

7 駒場寮管理運営の歴史的実態に無理解な執行異議却下決定

 2@の判断とも重なるが、執行異議却下決定においても実体的判断がなされている。そこで、控訴人らの共同占有との認定の理由とされているのは、
「駒場寮においては、管理者からの廃寮による退去命令が出された後も、本件債務者らやその他の在寮者が、これに従わず、本件建物に居住し続けているほか、寮自治と称して、独自に、本件建物への新規の入寮者の募集、入寮の可否の決定、在寮者らの使用できる部屋の変更(部屋がえ)を行い、さらに、人垣や障害物などによって管理職員による本件建物内部への立ち入り調査等を阻止していること等が認められる。このような状況からすれば、本件建物にかかる本件債務者らの占有の形態は、もはや個々の居室を生活の本拠等として使用する場合とは本質的に異なったものであ」る、と言うことである。
 しかし、駒場寮は、言うまでもなく、戦前からの自治寮であり、新制大学移行当初から「寮自治と称して、独自に、本件建物への新規の入寮者の募集、入寮の可否の決定、在寮者らの使用できる部屋の変更(部屋がえ)」を行って来たのである。また、管理職員による本件建物内部への立ち入り調査等を阻止したというのも、学部職員は従来は寮内に立ち入ることはなく、施設の点検、補修等何らかの必要な用事で寮内に立ち入る際にも必ず寮委員会に事前に連絡をしていたとの慣例からすれば(成瀬証人・58頁)、何ら廃寮以前と異なることはない。さらに、「管理者からの廃寮による退去命令が出された後も、本件債務者らやその他の在寮者が、これに従わず、本件建物に居住し続けている」のであるから、従来の個々の居室を生活の本拠等として使用する場合とは本質的に全く同じであるとしか、考えようがないのである。
 この執行異議申立て事件の決定は、かかる駒場寮の管理運営の歴史的事実を全く理解せずに出されたものである。これを無批判に前提事実として引用する原判決の誤りは重大である。

8 執行官のずさんな占有認定

(1) 第1部占有移転禁止仮処分

 被控訴人は、1996年9月3日の第1次占有移転禁止仮処分の際、駒場寮自治会及び多数の寮生の存在を隠して、債務者としたごく一部の寮生が無秩序に駒場寮全部を占拠しているという虚偽の申立てを行い、仮処分決定を得た。
 前述の「国有財産訴訟の手引」は、「単に一時的に同居しているだけの占有補助者なのか、排他的に寮室を占有している独立占有者なのかを確定する必要がある」と、各寮生による各寮室の占有状況を確定する必要があることを認めている。
 にもかかわらず、本件においては、その指定代理人自身が右確定すら行わず、裁判所に事実に反する認定を行わしめたのである。
 同年9月10日の右仮処分に基づく執行官による占有の認定は、当事者1人1人を現認すらしていないというきわめてずさんなものであった。実際、当日は、試験後の休み期間中で、寮生の所在を把握することも困難であり、債務者ら20名のうち、確認できたのは駒場寮委員長ほか8名だけであった。
 しかも、右仮処分の執行に際し、駒場寮自治会が駒場寮を整然と管理している事実および債務者とされた寮生以外に多数の寮生が居住している事実が執行官に露呈してしまった。
 そのため、仮処分調書には、6頁の参考事項の占有者の欄に、
「債務者ら20名並びに第三者駒場寮委員会のほか、氏名不詳者数名(サークルを含む)
 なお、氏名不詳者ら数名については、本日のところ委員会の占有補助者であるか否かは不明である。」と記載されたのである(甲9)。
 このうち、駒場寮委員会は、駒場寮自治会の執行機関に過ぎないから、駒場寮委員会が占有者であるとの認定は、誤りである。
 また、駒場寮には、本件執行当時、駒場寮委員会の許可を得て、121名もの寮生が入寮居住していたのであり、執行官の、寮委員会及び債務者ら20名以外に「氏名不詳者ら数名」のみが本件建物を占有している旨の占有認定も誤りである。
 しかも、この日の執行において指示説明をなした弁護士加藤健次らは、同年9月19日に日執行官と面会し、同月27日までに駒場寮の占有状況を説明した陳述書を執行官に提出する旨申し入れ、執行官もこれを待って執行調書を作成する旨確約していたのである。ところが、執行官は、どういう訳かこれを待たずに仮処分調書を作成したため、本件仮処分調書には上記のような誤った占有認定の記載がなされたのである。
 なお、この占有移転禁止仮処分執行においては、加藤健次弁護士が立ち会い、執行官に対し、前述の「共同占有と言うことはあり得ない」ことの他、@建物全体は寮生の自治団体である駒場寮自治会が管理・占有していること、A寮内には債務者ら以外にも多数の学生が居住していることを説明し、それ以外に寮生の側で積極的に主張すべきことがある場合には、後日、執行官に連絡する旨申し入れ、執行官も了承し、その上で、執行官が駒場寮の各室を確認して回ったのである。これらの経過については、被控訴人代理人も同席して直接見聞している(乙122)。したがって、控訴人らは、占有認定を妨害したことはなかったのである。

(2) 第2次占有移転禁止仮処分

 さらに、同年8月7日、被控訴人は改めて駒場寮自治会を債務者に含め、また他の寮生も債務者として(とは言え、債務者とされた寮生はやはり寮生全員のうちごく一部に過ぎなかった)、第2次占有移転禁止仮処分を申し立てざるを得ない事態に陥った。
 このように被控訴人が駒場寮自治会の存在を隠蔽できないと覚ったとすれば、当然、被控訴人は駒場寮自治会と個々の寮生との立場の相違、これに由来する占有の部分・態様・性質の相違に応じた主張に訂正すべきであった。にもかかわらず、被控訴人は、自らが虚偽の申立を行った事実を糊塗しようと、さらに駒場寮自治会と個々の寮生が駒場寮全部を共同占有しているという虚偽の主張を繰り返したのである。
 もちろん、かかる事実と完全に食い違った主張がそのまま認定される筈もなく、この時に、被控訴人が債務者として申請した者の中7名までもが、第2次占有移転禁止仮処分の執行の際、当時の駒場寮委員長==の説明に基づいて、債務者として認定されなかったのである。
右7名のうち、
 ==  ==  ==   ==  
は何らの「妨害行動」も行っていなかったことは、甲14号証からも明らかであり、国の申立のずさんさがここから浮き彫りとなる。
 この時には、執行官は駒場寮の各室の占有状況までも調査し、執行調書にその調査結果を添付している(甲11)。そして、その調査結果に示されているだけでも、債務者として申し立てられたよりも相当多くの寮生の名が記載されているのである。
 しかし、この第2次仮処分においても、当事者1人1人を現認せず、占有認定の資料は、部屋に残存していた手紙程度しかないのである。
 しかも、ほとんどの執行官は立会人不在のまま執行を始めた。仮処分調書の「執行に立ち会った者等の署名押印」欄には債権者指定代理人・立会人以外に寮側からも立ち会った人間がいたように見えるが、実際はたまたま居合わせた人間に署名押印を求めたのみで、執行の開始時から終了時まで立ち会った訳ではない(乙126)。
 この第2次仮処分における占有認定の誤りについては、当時の寮委員長であった控訴人==が陳述書(乙126)で指摘している。執行調書中には、「東大駒場寄宿寮自治会代表者==に対し、本件各債務者名を示し、同債務者らの居住の有無を確認した結果、・・・その余の27人は居住している旨陳述した」とあるが、控訴人==に関してはこの時点で占有していない旨を述べたし、控訴人==、控訴人==の両名に関しても、居住している旨陳述した事実はない。また、仮処分調書では、北寮、中寮を特定しない31S、11S、12S、13S、14S、16S、17S、31B、11B、12B、13B、14B、15B、について、駒場寄宿寮自治会、全寮連、都寮連が共同で占有していると認定されているが、北寮、中寮を特定しない部屋は駒場寮には存在しないし、執行調書添付の各室占有関係調査表にも、かかる部屋は示されていない。また、後述とおり、全寮連、都寮連は、それぞれ北寮32S、北寮32Bを賃借して占有しているのみであるから、上記の不明な部屋を駒場寮自治会とともに共同占有するはずがない。また、同頁に「上記債務者の占有認定をした資料は、在室者==の陳述による」とあるが、そのようなことを==が陳述した事実もないのであり、本件仮処分の占有認定のずさんさを物語るものと言える。
 さらに、==は、陳述書で、居住使用していないものが含まれているほか、占有を認定されていない居住者が当時数10名いること、占有を認定された者も、実際に占有している部屋と占有を認定された部屋とが甚だしく異なっていること、を述べている。
 実際、仮処分調書を見ると、各室占有関係棟調査表には、占有認定されたよりも遙かに多くの人物の名が占有者名の欄にあげられているのである。
 原判決は、==の執行官への陳述をもって、占有認定の正しさの根拠としているかのようであるが(25頁)、==の陳述とは、実際には、右のようなものだったのである。
 また、以上のように==が説明していることからもわかるように、控訴人らは、占有認定を妨害したことはなかったのである。

(3) 占有移転禁止仮処分執行異議申し立て

 控訴人らが各占有移転禁止仮処分執行に付き申し立てた執行異議は却下されたが、その理由は、第1には申立人らに異議の利益なしという形式的な判断に止まるものであった。前述のように実体的判断もなされてはいるが、その判事は駒場寮の管理占有の歴史的実態を無視したものであったことは前述の通りである。

9 予断と偏見に満ちた原判決

 以上の検討からすれば、控訴人らの「共同占有」の事実は、およそ認めがたいことは明らかである。にもかかわらず、原判決が控訴人らの「共同占有」という誤った事実を認めたのは、原審が、大学と駒場寮自治会の合意に基づく駒場寮の管理占有の歴史的実態を理解することなく、「大学側が正当であり、控訴人らはこれに対する妨害者であって無法な占拠者である」という予断と偏見を有していたからにほかならない。
 控訴審裁判所は、かかる偏見に満ちた原判決に捕らわれることなく、駒場寮自治会以外の控訴人については、原判決を破棄し、請求を棄却すべきである。


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