第3部 「法的措置」

1 法的措置に対する我々の基本的見解

 「大学の自治」を売り渡す「法的措置」。これについて駒場寮自治会は、電気・ガスの供給停止と同様、「学生を当事者として認めない」学部当局の姿勢から必然的に引き出された事態であると考えています。
 この「法的措置」は、教授会で了承されたからといって正当化出来るものではありません。教授会「決定」は現在の教授会が「学生を当事者として認めない」ことを宣言したに過ぎないのです。そして、いざ学生が当事者として立ち現れても叩き潰せるのだという前例作りとしての攻撃であるという点も見逃してはなりません。学生がいくら反対をしようとも、それを「法的措置」によって片付けることが出来るのだという訳です。学生の主体性を無視し、学部当局に管理された学生自治へと変質させるための道具が「法的措置」なのです。
 また、大学自治は対話を基礎にしていますが、このような実力での叩き潰しの前例を作ることは、そのような対話を不可能にしていくものです。「法的措置」も「機動隊導入」も本質的には変わらないということは、昨年の『東大新聞』の論評にもありましたが、一方の当事者としての問題解決の努力を放棄し、学外権力に売り渡すという点に於いて「法的措置」は「警察力導入」と全く変わりません。

2 「占有移転禁止」仮処分(注六)の内容

 1で見た通り、「法的措置」に突入したというだけで、充分「大学の自治」を売り渡す行為であると言えますが、その申し立て内容はさらに酷いものでした。

 「占有移転禁止」仮処分申請の大前提とされているのが以上の2点でした。
 しかし寮生が20名だけではないことは勿論のこと、「無法地帯」を印象付けるためにウソを書き連ねています。決してこの20名だけしか同定出来なかったのではなく、政治的選別をしていることは明らかです。
 さらに寮自治会という学生自治団体を抹殺するために(あるいは抹殺してきた手前、整合性を持たせるため)、20名が寮全体を共同占有しているという、全く実情と乖離した申し立てとなっています。これらのデタラメな申請それ自体が「公正中立の立場からの判断を仰」ぐためではないことを既に物語っていますが、学部当局の真の狙いは学生自治潰し(=学生に当事者として口を挟ませない)であることを、仮処分申請に当たって学部当局から東京地裁に提出された「疎明資料」(=学部当局の主張内容)は如実に示しています。
 ここで学部当局が「廃寮決定」を正当化するために引き合いに出しているのは、「国有財産台帳」や「国有財産取締規程」等、私たちの考える大学の自治には全く不充分なものばかりです。自らが判をついた「東大確認書」や「八四合意書」の約束事については全く触れられていません。要するに、政府文部省を後ろ盾に、いかに大学の自治が教授会の自治であるかを述べ連ねたものが「疎明資料」に他なりません。そのようなものにしか依拠出来ないこと自体、学生の主体性を認めないことを続けて破綻させてしまった「大学の自治」を露呈するものです。

3 執行異議申立却下

 たった20名で寮全体を共同占有しているという「占有移転禁止」仮処分の大前提が全くの間違いであったので、この点を中心に寮側から「占有移転禁止」仮処分執行異議申立を行いました。すなわち、寮生は20名以外にも多数いること、寮全体の共同占有ではなく各部屋の個別占有であること、等を示して異議申立を行ったのです。これに対して国(大学当局)側は、一方で手続き上のミスについてしか異議申立出来ないという形式論を持ち出しながら、他方では共同占有もあり得るから共同占有であるとして実体上の議論に立ち入る、といった支離滅裂な意見書を提出し、仮処分申立の杜撰さ、虚偽性が改めて浮き彫りになりました。
 しかし最終的に東京地裁は、国側の意見に擦り寄る形で、寮側の異議申立を却下したのです。司法が行政に屈服した「三権分立」の現状をまざまざと見せつける結果でした。しかし大学当局が一貫して黙殺してきた寮の自治団体=駒場寮自治会を裁判所が初めて認定するなど、仮処分申立の虚偽性を裁判所の口から暴露させることが出来たのは、我々の成果であり、これ以後、国(大学当局)側も駒場寮自治会が健在であることを前提として「法的措置」を進めなくてはならなくなったのです。仮処分を通じて、最大のウソ『寮は存在しない』がまず打ち崩されたのです。

「法的措置」に関する主な経緯 詳しい経緯はこちら
1996年
6/206月教授会、「法的措置の学部長への一任」を「決定」
8/12学部当局・国側、「占有移転禁止」仮処分申し立て
9/3「占有移転禁止」仮処分不当決定
9/10第一次「占有移転禁止」仮処分執行
10/31寮側、東京地裁に「占有移転禁止」仮処分執行異議申立
1997年
2/5学部当局・国側、北・中・明寮の「明け渡し」仮処分申請
3/6第一回審尋
3/18第二回審尋
3/19学部当局・国側、北中寮に対する申立を取り下げ
3/25明寮「明け渡し」を認める不当決定
3/29明寮「明け渡し」仮処分第一次強制執行
4/10明寮「明け渡し」仮処分第二次強制執行
8/7第二次「占有移転禁止」仮処分執行
10/1学部当局・国側、北寮・中寮の「明け渡し」本裁判申立
1998年
2/20「明け渡し」本裁判口頭弁論開始
(2000年3月28日の第一審判決までに10回の口頭弁論、2回の証人尋問が行われる)

4 「明渡断行」仮処分に突入

 国(大学当局)側は執行異議申立の結果を待っていたように、却下決定が出ると直ぐ「明渡断行」仮処分申立に踏み切ってきました。これはその名の通り、寮生を叩き出すための法的手続きです。彼らは執行異議申立によって虚偽性が暴露されたことにも全く懲りずに、むしろ「気分一新」して「廃寮」強行路線をひた走っているのです。まさに、「首を斬り落とされた鶏はもがく」といった形容がぴったりの状態です。
 しかも、国(大学当局)側は、東京地裁が充分な検討を尽くすことが出来ないことを承知の上で、急いで決定を出すことを強力に主張しました。1996年9月に「占有移転禁止」仮処分が執行されて既に半年も経過した1997年2月になって、僅か一ヶ月で決定を出すように要求したのです。故意に申立を遅らせ、学生が対処しづらい期末試験期間を狙って申立し、かつ春休み中に強制執行してしまおうという意図は、もはや彼らに話し合いで解決する意志も、能力もないことを如実に示して余りあるものです。
 しかし何より、この「明渡断行」仮処分過程で明らかになったのは、「廃寮」計画が目指すところが、単に駒場寮建物だけではなく、キャンパス全体の学生自治の破壊であることです。
 例えば、この仮処分を通して学生会館や旧物理倉庫などのサークルスペースの取り壊しに関する学部方針がはっきりと示されました。これまで学内では抽象的な、お茶を濁した回答しかなされていなかった「CCCL」計画の学生自治への悪影響が、明らかになりました。「廃寮」が学生自治全体への攻撃の信号弾であることはもはや隠しようのない事実です。大学当局は「廃寮」の「必要性」を東京地裁に示すため、次々と本音を吐かざるを得なくなっていったのです。
 結局、国(大学当局)側は、北中寮の同時明け渡しは困難と判断したのか、自ら北中寮の明渡申立を取り下げました。しかしこれは、却下決定を予防的に回避しただけであり、依然として彼らは「廃寮」強行路線を変更していません。東京地裁は充分な検討をしないまま、予め国側から要求されていた通り、直ぐに明寮及び附属する渡り廊下の明け渡し決定を出しました。この仮処分が国のためのものに他ならないことは明らかです。
 そして決定から僅か4日後、明寮の「明渡断行」仮処分が執行されました。我々は裁判所の決定に従って任意に明寮を退去する旨伝えていたのですが、その翌日、作業員やガードマン、教職員ら総勢200名が動員されて抜き打ち的に強制執行が行われたのです。その執行も全く不当なものであり、明け渡し対象者ではない人々も無理やり叩き出されてしまいました。大学当局が厳然たる権力機構であり、法が何の/誰のためのものなのか、露骨に示す結果となりました。

 仮処分という「法的措置」を取ることは「公正中立の立場からの判断を仰ぐ」ためであると大学当局は主張してきました。しかし、そもそも仮処分という手続きは、非公開であり、債務者(被告)からの事情聴取も必要とされない、極めて緊急の場合に用いられる手続なのです。この駒場寮問題はそもそも裁判に訴えること自体が問題ですが、もし審理するにしても充分に時間をかけるべき問題です。何の緊急性もないのに(実際、北・中寮に関してはいかに国よりの裁判所でも却下せざるをえないほど緊急性は微塵もありませんでした)破綻したCCCLを急がなくてはならないとして仮処分という手続を用いることは極めて問題があります。国側の虚偽の申立を何ら検証することなくそのまま採用し、「適法」のお墨付きを与える、「明渡断行」仮処分はこのように極めて不当な経緯をたどりました。このような手段によって駒場寮問題の本質的解決を図ることは不可能であることは言うまでもありません。
 これら一連の「法的措置」はそのことを改めて明らかにするものでした。

 しかしそのような「法的措置」による「解決」自体への不当性・その主張内容の荒唐無稽さにもかかわらず、国(学部当局)は、1997年10月1日に今度は、「北中寮の明け渡し」を求める本裁判をおこしました。主張内容もデタラメながら、またしても学部当局の体質(「学生はあくまで当事者ではなく、決して話し合う対象ではない」)が明らかになりました。私たち駒場寮自治会は再三にわたって「裁判による解決をめざすのではなくて、話し合いで解決するよう」要求していますが、そのような要求も学部当局は全く相手にもせず裁判での強行的な「解決」をめざし続けています。このような学部当局の姿勢は絶対に許すことができません。

[←第2部 | 第4部→]